最高の挨拶は最高のリーダーシップを発揮する

最高の挨拶は最高のリーダーシップを発揮する

これは、僕がマクドナルドのアルバイトにかなり慣れてきた頃の話です。
一人の元気な女子高校生が新しく店舗に入ってきました。彼女はショートカットでややぽっちゃり、不二家のペコちゃんがマクドナルドのユニフォームを着て、元気に働いたらこんな感じなんじゃないかなって感じの『 天然元気娘! 』という感じの子でした。そんな子がマクドナルドでリーダーシップを発揮する存在に変わっていくです。

この彼女は、特にレジ打ちが早い訳でもなく、天才的な接客技術を駆使する訳でもありません。あくまでも一生懸命に働く、標準的な女子高生でした。にも関わらず…彼女はこの店になくてはならないリーダーシップを発揮する存在になっていたのです。それは、彼女の抜群の“挨拶”にありました。

そのときのお店はエリアでも有数のハイセールス店舗で、しかも平日の夕方に毎日のように、しっかりピークが訪れる店でした。駅前店ということもあり、夕方の16時30分過ぎ当たりから、学生さんが来店し始めて、17時過ぎには店内客席も一杯になり、カウンター前にも長い列が出来ることもあるほどでした。

お客さまも学生が中心で、アルバイトも夕方以降は学生が中心だったため、ともすればお客さまのピークの方が、学生アルバイトが店舗にインしてくる時間よりも早くなることがあり、店舗がパニックになることもありました。そんな時は、ちょっとしたミスやチームワークの乱れが起きると、店舗運営がスムーズにいかない原因を誰かに求めたくなってくるもの。

そんなムードが高まる、平日の午後17時30分。
少し甲高い、若さと明るいエネルギーに溢れた、元気な挨拶が店内に響き渡るのです!

「おっはよ~♪ございま~すっ!!」

その時、店舗にいる全従業員の顔が申し合わせたように上を向き…!!

それまでのイライラがどこかに飛んでいったような明るい表情が戻るのです。

「おお!おはよう~♪」

「来たね~! よろしくっ!!」

そんな店舗に生まれ変わるのです!!まるで、一瞬で空気が入れ替わったかのように…。彼女のたった一言が全員のマインドを塗り替えてしまうのです。

そして、その17時30分に毎回確実に、店舗運営はスムーズに気持ちよく回転していくのです。
大げさでなく、魔法のような“挨拶”をプレゼントしてくれる…。
彼女の17時30分の奇跡に敬意を払って、彼女の名を冠した「安西マジック」と僕たちはその現象を呼ぶようになっていました。

「いつも元気で良いね~」

「安西さんがインしてくると私たちにも元気が移ってくるんだよ~」

言っておきますが、彼女は入りたての新人さんであって、ベテランの仕事がバリバリできる人ではありません。その彼女が確実に店舗運営の生産性を高めるこの現象はいったい何なのでしょう?

 

平日の17時30分。社員さんがどんなに声をからしてクルーを励ましたり、怒ったりしても重い空気を払拭できない魔の時間。その重い空気を一瞬にして変えてしまう、彼女のあいさつのパワーたるや!! 僕は、その現象を素晴らしいとは感じていましたが、同時に不思議でなりませんでした。
ある日、僕は珍しくクローズシフトではなかったので、店舗から電車で帰ろうとしていました。その日は安西さんも同じ時間の仕事終わりだったので、家が隣の駅だったことを思い出し「一緒に帰ろう」と彼女を誘いました。「はい!」といつも通りの元気な返事をもらえてホッとした僕は、彼女と一緒に駅に向かい、そこで僕の知らない彼女について、新しい発見をすることになるのです。

 

僕にとって不思議な魅力を持つ、彼女の最大のインパクト・ポイントについてストレートに聞いてみることにしました。

「ねぇ、安西さんはさぁ、何でいつもあんなに元気な挨拶でインしてくるの?」
なんのひねりもない聞き方でしたが、それが良かったのかもしれません。

「私、実はアルバイトするの初めてで、しかも学校とかではあんまり目立つ方でもなくて…。多分、みんなが思っているより暗いタイプだと思うんですよ…」

彼女の口からは、想像もしていなかった言葉が出て来て、僕は押し黙ったまま聞いているのが精一杯でした。

「本当は、活発で誰とでも仲良くなれて、いつも友達に囲まれてるようなそんな風になりたいなって…中学の時からずっと思ってたんです」

もしからしたら、ヤバい事聞いちゃったかなぁ?と軽い気持ちで聞いてしまった僕は少し後悔し始めていました。

 

「それで、マクドナルドでアルバイトすれば・・・私も活発な女の子になれるんじゃないかって、そう思ってマックのバイトの面接に思い切って行ってみたんです!」

 

なるほど、友達に誘われてとりあえずイヤイヤ面接にきちゃった俺とは大違いみたいだな…。そんなささやかな劣等感を感じる僕を無視して…安西さんの告白はつづきます。

「そうしたら、面接してくれた社員さんも、トレーニングしてくれる先輩の人もみんなすっごく優しくしてくれて。でも私不器用で、みんなみたいにテキパキ仕事できないし。そんな風に思うとせっかく活発な女の子になりたくて始めたバイトなのに、逆に暗くなっちゃって。始めてすぐに…やっぱりやめようって思ってたんです」

どんどん深刻な話になっていって引き気味だった僕は、逆に安西さんの告白と今の彼女の変貌ぶりに、いったい何が起きたのか…?!何があったらこんなに人間は変われるのか…?!と、どんどん引き込まれていくのを感じていました。

 

「それで、ある日、今日のバイトが終わったら社員さんにやっぱり向いてないから辞めたいんです、という話を思い切ってしようと思って・・・今日がラストだから精一杯頑張ろうって思ってインした日に、社員さんから…

『安西さん! 素晴らしい挨拶だねっ!!』

てすっごい褒めていただいたんです!!」

そう告げる彼女の目はキラキラと潤んでいました。

「その瞬間からです。何か上手く言えないんですけど・・・私にも出来るって! 私にも出来る事があるんだって思ったんです!!」

「それが…挨拶だった?」

こみ上げてくるものを押さえながら僕は訊きました。

「はい! 誰よりも元気な挨拶をしようって決めたんです!!」

危なかった・・・その時、僕たちが乗る電車がホームに到着してくれたことで、僕はかろうじてシャツの袖でバレないように目頭を拭う事が出来たことに胸を撫で下ろし、電車に乗り込みました。

 

17時30分に起きる奇跡

「安西マジック」の誕生には、そんな物語があったなんて想いもよらないことでした。しかし同時に僕はなぜか、しっくりくる感覚も感じていました。

 

あの一瞬で全員の表情を変えてしまう“挨拶”。

社員さんが怒鳴りつけても変えられない店舗のムードを、一瞬の内にたった一人のリーダーシップでその場を変えてしまう、その奇跡の挨拶…。

 

表面には決して現れない、人間の内面の“弱さ”と、自分の可能性に気づいたときの“強さ”の両面を安西さんから学んだように思います。電車に乗り込んで、少し気持ちの整理がついた僕は彼女に言いました。

「じゃあ、安西さんはあの“挨拶”をする前と後では別人みたいになってたってことなの?」

彼女はいつもの女子高生に戻って答えました。

「わっかんな~い!でもみんなには違う人に見えてると思いますよ♪絶対!」

彼女はそう言いながら、いたずらっぽく舌を出して天使のように笑ったのでした。

そう言われてみると、僕自身彼女を知ったときには「あの元気な挨拶をする安西さん」としか認識していなかったけれど、彼女の話を聞く限りその前から店舗には何度もインしていたのです。

 

〜 でもその彼女を僕たちは覚えていない。〜

“人は変われる!”

“1人の女子高生でも最高のリーダーシップを発揮できる”

なんだかそのことを知った僕は、嬉しくて仕方がありませんでした!!

 

次の日も17時30分になると…

「おっはよ~♪ございますっ!!」

彼女の元気な声が店舗に鳴り響いていました。

ABOUTこの記事をかいた人

講演家、YouTuber。日本マクドナルドでの勤務を経て、2010年独立。人材育成やマネジメント、リーダーシップについての講演・研修を熱い想いで行う「炎の講演家」として活躍。これらを記した著書も多数。YouTubeチャンネル登録者数100万人以上、再生回数2億回以上を数える。