マクドナルドの社員のなすべき本当に大切な仕事
僕がマクドナルドで社員になるキッカケをつくってくれた人物がいる。
今田さん(仮名)という人です。この人と出会わなかったら恐らく入社していなかったと思うし、アルバイト4年間の仕事の取り組み方も全然違ったものになったのではないかと思います。それほどに、この人の生き様や働き方は、僕に強烈な印象を与えてくれました。
当時のマクドナルド所沢店は、会社としての評価はAAA(トリプルエー)といって、QSC(クォリティー、サービス、クレンリネス)の基本理念の全てにおいて最高評価をもらっている優秀店舗でした。 しかし、その反面“モラル”という面では大きな課題を抱えていました。今田さんはそのようなモラルに関して、徹底的に改善する取り組みを始めたのです。僕は思い切って今田さんに疑問をストレートにぶつけてみました。
「今田さんはなぜそこまでしてモラルに関して厳しく徹底してるんですか?みんな今田さんにはついていけないって言っていますよ」と。そうなのです、実際にそこまで厳しくしているのは今田さんただ一人だったのです。正しいことをしているとは思うのですが、実際にはみんなに嫌われまくっている。これでは今田さんも楽しい訳がありません。僕はそこまでしてモラル改善の徹底にこだわっている今田さんの考えが理解できませんでした。しかし、そのとき今田さんの口から伝えられた真意に、僕の心と将来は大きくゆすぶられることになるりました。
「俺はなぁ、鴨頭。マクドナルドでアルバイトする奴にハンバーガーのつくり方を教えるのが社員の仕事じゃないと思ってるんだ。マクドナルドの社員の本当の仕事は“人として社会に貢献できる大人に成長させてやること”だと思ってるんだ。マクドナルドには、毎年何万人もアルバイトが入ってくる。その多くが初めて仕事をしてお金をもらう経験をする。その大切な時期に、間違ったことを覚えてしまったら、将来誰よりもそいつが不幸になるだろ。だから、間違ったことをしたら受け入れてもらえない、それが社会っていうものだということを徹底的に教える。そのためだったら、俺は嫌われようが陰で何を言われようが構わない」と敢然と言い放ったのです。
僕は心の底から感動しました。
心が震えるような気がしました。僕自身も単なる厳しい社員だなぁというくらいの認識しかなかったのですが、今田さんの自分に対する厳しさと、我々アルバイトに対する厳しさの奥にある“本当の愛情”にようやく気づくことができたのです。
きっと、マクドナルドの社員規則にはそんなことは書いてありません。しかし、今田さんは自分で“マクドナルドの社員のなすべき本当に大切な仕事”を定義したのです。そして、上司の協力がどのくらいであろうと、部下からの理解がなかろうと、貫き通して生きていたのです。僕が子供の頃から持っていた、サラリーマンに対するネガティブなイメージが破壊された瞬間でした。そしてそれは、生まれて初めて“かっこいい大人”に出会った感動でもありました。
今田さんの真意を誰も理解できなくても、僕だけはこの人に付いていこうと心に固く誓ったのです。